聴診法血圧測定のコツ|コロトコフ音が聞こえない・ずれるケースの対処法
聴診法で血圧を測定する際にコロトコフ音が聞こえない・値がずれる原因と、新人看護師がすぐ実践できる対処法を手順ごとにわかりやすく解説します。
「カフを巻いてスコープを当てたのに、音が全然聞こえない…」そう焦った経験、あなただけじゃないですよ!
聴診法による血圧測定は、看護師が日々のバイタルサイン確認で最もよく行う技術のひとつです。しかし「コロトコフ音が聞こえない」「測定値が毎回ばらつく」という悩みは、経験年数に関わらず多くのナースが一度は直面します。特に病棟配属直後の新人ナースにとっては、時間のプレッシャーの中でうまくできないと自信をなくしやすい場面でもあります。
この記事では、コロトコフ音が聞こえない・値がずれる原因を原理から整理したうえで、すぐ実践できる対処法を手順ごとに解説します。「知識としてはわかっているけれど、うまくいかない」というギャップを埋めることを目的としています。測定手技を根本から見直したい方にも、特定の場面で困っている方にも役立てていただけます。
🫀 聴診法の原理をおさらい——コロトコフ音はなぜ聞こえるのか
コロトコフ音が聞こえない理由を解決するには、まず「なぜ聞こえるのか」を理解することが近道です。原理を知ると、どこでつまずいているかが自然と見えてきます。
コロトコフ音が生まれる仕組み
聴診法は1905年にロシアの軍医ニコライ・コロトコフが提唱した方法です。上腕にカフを巻いて加圧することで動脈を一時的に圧迫し、そこから徐々に圧力を下げていくと血液が乱流となって流れ始め、特有の血管音——コロトコフ音——が発生します。
収縮期血圧では、心臓から押し出された血液がカフの圧力を超えて流れ始める瞬間に「トン」という音が生まれます。これがコロトコフ第1相です。その後、カフ圧をさらに下げると乱流が減り、最終的に音が消える点が拡張期血圧となります(第5相)。
つまり、コロトコフ音が聞こえるためには次の3条件が必要です。(1) カフが上腕動脈を正しく圧迫できていること、(2) 聴診器が動脈の直上に当たっていること、(3) 加圧・減圧のスピードが適切であること。この3条件のどこかが崩れると音は聞こえなくなります。
第1相から第5相の変化を聞き分ける
コロトコフ音は5つの相に分けられます。実際の測定で重要なのは第1相(音の始まり=収縮期血圧)と第5相(音の消失=拡張期血圧)です。第2〜4相は中間的な変化で、日常の測定では特別に区別する必要はありませんが、妊娠高血圧などでは第4相(音が急に弱くなる点)を拡張期血圧とする場合もあります。
患者さんによっては第1相から第5相の間に音が一時的に消える「聴診間隙(auscultatory gap)」が出ることがあります。高血圧患者さんで起きやすく、気づかずに測ると本当の収縮期血圧を低く読み誤ります。次の章で詳しく解説します。
🔍 コロトコフ音が聞こえない——原因別チェックリスト
音が聞こえないときは、下記の項目を上から順番に確認してください。一度に全部直そうとせず、一項目ずつ確認・修正するのがコツです。
カフの位置・装着状態を確認する
最も多い原因が「カフのずれ」です。マンシェットの下縁は肘窩(肘の内側のくぼみ)の2〜3cm上になるように巻きます。下縁が肘窩にかかっていたり、高すぎる位置にあったりすると、聴診器を当てる場所と圧迫している動脈がずれて音が聞こえなくなります。
また、マンシェットの中の気嚢が上腕動脈の真上に来ているかも確認しましょう。多くのカフには動脈マーク(▲や「ARTERY」)が印刷されています。このマークを上腕内側の動脈に合わせるだけで測定精度が大幅に改善することがあります。
巻き方のきつさも重要です。指2本が入る程度(ゆるすぎず、締めすぎず)が適切です。ゆるすぎると動脈を十分に圧迫できず、音が出る前に血流が通過してしまいます。逆にきつすぎると血流が滞り、これもうまく聞こえない原因になります。
聴診器の当て方を見直す
聴診器のダイアフラム(平らな面)またはベル面を上腕動脈の真上に軽く当てます。ここで注意が必要なのは「強く押しすぎない」ことです。強く押し当てると動脈を圧迫して血流を遮断してしまい、コロトコフ音が消えます。「置く」くらいの力加減が正解です。
スコープの向きも確認してください。イヤーピースの向きが耳道の方向と合っていないと、音が鼓膜に届きません。イヤーピースは前方(鼻側)向きに装着するのが一般的です。迷ったら鏡の前で確認してみてください。
肘を曲げた状態で測定すると、カフがずれたり動脈が圧迫されたりします。患者さんの腕をしっかり伸ばした状態、かつ心臓と同じ高さになるよう支えて測定します。腕が心臓より低いと血圧は高く、高いと低く測定されます。
加圧・減圧のスピードが問題のことも
加圧は迅速に行いますが、減圧は1拍あたり2〜3mmHgのゆっくりとしたスピードが基本です。速く落としすぎると音が聞こえるタイミングを見逃し、遅すぎると患者さんが痛みを訴え血管収縮を引き起こします。
まず触診法で橈骨動脈の拍動が消えるまで加圧し、そこからさらに30mmHg上乗せして最高圧を設定します。こうすることで「どこから音が始まるか」の目安がわかり、聞き逃しを減らせます。加圧不足による「なんとなく音らしいものが聞こえたような気がする」を防ぐためにも、触診との組み合わせが有効です!
📋 測定値がずれる原因と対処法——状況別まとめ
値がばらつく・実際と違う値が出るケースには、複数のパターンがあります。
聴診間隙(auscultatory gap)による誤読
高血圧や動脈硬化のある患者さんで、収縮期血圧と拡張期血圧の間にコロトコフ音が一時的に消える区間が出ることがあります。この「聴診間隙」に気づかずに加圧不足のまま測定すると、音が消えているタイミングを拡張期血圧と誤読したり、音が再開したタイミングを収縮期血圧と誤読したりします。
対策はシンプルです。必ず触診で収縮期血圧の目安を確認し、その値より30mmHg以上加圧してから聴診に移ることです。「180mmHgまで加圧が必要だった患者さんに160mmHgで測定していた」という事例は現場でも起きやすいので注意してください。
マンシェットサイズの不一致による誤差
成人用の標準カフは幅12〜13cm前後ですが、上腕周径が太い患者さん(33cm以上が目安)には大きめカフが必要です。細い腕の患者さんには小児用カフを使います。
太い腕に細いカフを使うと実際より高い値が出て(偽高血圧の原因になります)、細い腕に太いカフを使うと低い値が出ます。病棟では「成人用カフだけ」が準備されているケースも多いですが、測定値が明らかにおかしいときはカフサイズを確認する視点を持ってください。
環境・姿勢・測定前の状態も値に影響する
患者さんが測定直前に排泄・移動・処置を受けた場合、交感神経が刺激されて血圧は一時的に上昇します。可能であれば5分以上の安静後に測定し、直前の状況を記録に添えると主治医が判断しやすくなります。
また、足を組んでいる・膀胱充満・会話中・喫煙直後なども血圧を上昇させます。測定前に「今、足を伸ばして楽にしてもらえますか」の一言を習慣にするだけで再測定の頻度が減ります。
🏥 患者さん別の注意点——現場で出会いやすいケース
不整脈がある患者さんの測定
心房細動などの不整脈がある患者さんは、拍動ごとに1回拍出量が異なるため血圧が毎回変わります。コロトコフ音も強弱が不規則に変化するため、一定の点を収縮期・拡張期と決めにくい場合があります。
このような場合は、複数回(少なくとも2〜3回)測定して代表値を主治医と相談しながら決めます。「測定ごとに値が変わる」ことを医師へ伝え、測定方法の指示を得ておくと現場での混乱が減ります。
橈骨動脈が触れにくい患者さん
動脈硬化が進行している高齢者や低体温・ショック状態の患者さんでは、橈骨動脈の拍動が弱く触診での確認が難しい場合があります。こうした場合は上腕動脈を直接聴診しながら加圧し、音が消える点より少し上で止めて測定します。
また、シャントがある透析患者さんの場合はシャント側での測定は禁忌です。必ず反対側で測定し、その旨を記録に残します。
肥満・浮腫のある患者さん
上腕に浮腫がある場合や、極端な肥満でカフが巻けない場合は、前腕や足首での測定に変更することがあります。その際は部位を記録に明記し、上腕での値と異なる可能性があることを報告します。部位変更の判断は看護師単独でせず、主治医・先輩ナースへ相談してから行ってください。
📝 測定値の読み取りと記録のポイント
コロトコフ音の始まり(第1相)が収縮期血圧、消失(第5相)が拡張期血圧です。値はめもりの2mmHg単位で、音が始まった点・消えた点を読み取ります。
「なんとなくここかな」という読み取りは避け、明確に聞こえた点・聞こえなくなった点で記録します。「120/70」のように「/」で区切って表記するのが一般的です。測定した時刻・体位・測定部位も合わせて記録しておくと、前後の変動との比較がしやすくなります。
前回値と10mmHg以上の差がある場合や、収縮期血圧90mmHg未満または180mmHg以上の場合は、再測定を行ったうえで速やかに先輩ナース・担当医へ報告します。数値の変化に加えて「患者さんの顔色・訴え・直前の行動」も一緒に伝えると、より的確な対応につながります!
今日からできる一歩は「次の測定の前に、カフの動脈マークと下縁の位置だけ確認してみること」です。この小さな習慣を続けると、測定精度が目に見えて安定してきます。コロトコフ音が聞こえない原因のほとんどは装着の確認で解決できます。あなたの手技は必ず上達します!
あなたの次の一歩に
❓ よくある質問
Q. 聴診法での血圧測定でコロトコフ音が聞こえないときはどうすればよいですか?
まずカフの位置・マンシェットの巻き方・聴診器の当て方を一つずつ見直してください。カフが上腕動脈から外れていたり、加圧不足でスコープを強く押し当てすぎていることが多いです。それでも聞こえない場合は触診法で収縮期血圧を先に確認してから改めて聴診法で測り直す方法が有効です。
Q. コロトコフ音が途中で消えてしまう「聴診間隙」とは何ですか?
高血圧の患者さんで収縮期血圧と拡張期血圧の間にコロトコフ音が一時的に消える現象です。この間隙に気づかず加圧不足で測定すると実際より低い値を収縮期血圧と誤読する危険があります。事前に触診で最高血圧を確認し、その値より30mmHg以上加圧してから聴診に移ることで防げます。
Q. マンシェットを巻く位置と幅は測定値に影響しますか?
大きく影響します。カフの下縁は肘窩の2〜3cm上が適切な位置です。また上腕の太さに合わないマンシェット幅を使うと値が変わります。細い腕に幅広のカフを使うと実際より低く、太い腕に幅の狭いカフを使うと実際より高く表示されるため、体型に合ったサイズを選ぶことが重要です。
Q. 左右差があるときはどちらの腕で測定するのが正しいですか?
初回は必ず両腕で測定し、値が高い側を基準として以後の測定に使います。左右差が10mmHg以上ある場合は医師へ報告が必要です。鎖骨下動脈狭窄や大動脈解離のサインである可能性があるため、異常値として記録し、独自に判断せず必ず報告してください。
Q. 患者さんが緊張していると値が高くなりますか?また対策はありますか?
はい、白衣高血圧と呼ばれる現象で実際の血圧より高く出ることがあります。測定前に5分以上安静を保ち、会話を控えて環境を整えることが基本です。また連続して2回測定し、1〜2分の間隔をおいた平均値を記録とすることで偶発的な高値を排除しやすくなります。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個々の患者さんへの対応・測定方法の変更については、必ず担当医・上位資格者にご相談のうえ判断してください。
参考情報源
- 耳寄りな心臓の話(第7話)血管音で血圧を計る (公益財団法人 日本心臓財団) アクセス日: Thu Jun 04 2026 02:00:00 GMT+0200 (Central European Summer Time) https://www.jhf.or.jp/publish/bunko/07.html
- 血圧測定、腹囲計測等の手順(測定時の留意点) (厚生労働省) アクセス日: Thu Jun 04 2026 02:00:00 GMT+0200 (Central European Summer Time) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/pdf/02b_07.pdf
- 看護職の皆さまへ (公益社団法人 日本看護協会) アクセス日: Thu Jun 04 2026 02:00:00 GMT+0200 (Central European Summer Time) https://www.nurse.or.jp/