言語表現できない患者の疼痛アセスメント|BPS・CPOTの使い方
挿管中・認知症・意識障害のある患者の痛みをBPS・CPOTで数値化する手順を解説。ICU・救急ナースが現場で即使えるアセスメントフローを具体的に示します。
「この患者さん、表情がゆがんでいる気がするけど、痛みなのかせん妄なのか判断できない……」ICUや救急で挿管患者を担当したとき、こう思ったことが一度はあるはずです!
言葉で「痛い」と伝えられない患者の痛みを見逃すことは、せん妄の悪化・不穏行動・回復遅延につながります。一方、鎮痛薬を過剰投与すれば呼吸抑制や離脱困難を招きます。だからこそ「数値化して判断する」という習慣が、クリティカルケア領域では欠かせません。
この記事では、国際的なPADISガイドライン(2018年改訂版、日本集中治療医学会が日本語訳を公開)で推奨されているBPSとCPOTを中心に、非言語的患者の疼痛アセスメントをどう組み立てるか、手順を追って解説します。認知症患者への応用や、よくある現場の迷いポイントも合わせて整理しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
🔍 なぜ非言語患者の疼痛評価が難しいのか
ICUでは多くの患者が気管挿管・鎮静管理下に置かれており、自己申告による疼痛評価(NRSやVASなど)が使えません。痛みを表現できないからといって「痛みがない」わけではなく、むしろ声を出せない分だけ見逃されやすいという点が最大の問題です。
痛みを放置するとどうなるか
痛みが適切に管理されないと、交感神経の過緊張から頻脈・高血圧が生じ、心負荷が増大します。また、痛みのストレスはICUせん妄の強力なリスク因子であることが多くの研究で示されています。人工呼吸器との非同調が増えれば、バロトラウマのリスクも上昇します。つまり、疼痛管理の失敗は多臓器に波及するのです。
行動観察による評価が標準になった背景
1990年代後半から、観察可能な行動指標を数値化する試みが進み、BPSは2001年にフランスのPayen らによって開発されました。その後CPOTが登場し、現在では米国集中治療医学会(SCCM)がまとめたPADIS(鎮痛・不穏・せん妄・不動・睡眠)ガイドライン2018年版において、この2つが最も妥当性の高いスケールとして推奨されています。日本集中治療医学会はこのガイドラインの日本語訳を2019年に公開しており、国内でも普及が進んでいます。
📋 BPS(Behavioral Pain Scale)の使い方
BPSは気管挿管中の患者向けに設計された3項目の行動評価スケールです。合計3〜12点で、5点以下を管理目標とし、6点以上で介入を検討します。
3つの観察項目と採点基準
| 項目 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 |
|---|---|---|---|---|
| 表情 | 穏やか | やや緊張 | 完全に緊張(眉をひそめる) | 顔をゆがめる |
| 上肢の動き | 動きなし | 部分的に曲げる | 完全に曲げて指を握る | 完全に引きこむ |
| 人工呼吸器との同調性 | 同調している | 咳があるが大部分は同調 | ファイティング | 換気不能 |
採点はベッドサイドで1〜2分あれば完了します。観察のポイントは「処置の直前・直後」の2点を比較することです。処置後にスコアが上昇していれば、鎮痛が不十分だった証拠として記録できます。
BPS評価の流れ:ステップバイステップ
(1)患者を静かに観察し、安静時のベースラインを採点する。 (2)吸引・体位変換など侵襲的ケアを実施する。 (3)直後にもう一度採点し、ベースラインとの差を確認する。 (4)BPS6点以上なら主治医・担当医に報告し、鎮痛薬追加を検討する。 (5)介入後30〜60分で再評価し、効果を記録する。
この「Before/After比較」の習慣を持つことで、痛みの原因と鎮痛効果の両方をデータとして残せます。
📊 CPOT(Critical-Care Pain Observation Tool)の使い方
CPOTはBPSより評価対象が広く、挿管患者だけでなく気管挿管していない患者にも使える汎用性が特徴です。4項目それぞれ0〜2点で合計0〜8点、3点以上で介入が推奨されます。日本語版(CPOT-J)の信頼性・妥当性も検証されており、評価者間一致率はκ係数0.803と報告されています。
4つの観察項目と採点基準
| 項目 | 0点(正常) | 1点 | 2点(最大) |
|---|---|---|---|
| 表情 | 無表情・リラックス | 緊張(眉をひそめる) | 顔をゆがめる・歯をくいしばる |
| 体の動き | 動きなし | 保護的動作(管を触ろうとするなど) | 落ち着かない・激しく動く |
| 筋緊張(上肢の受動的屈伸で確認) | 抵抗なし | 緊張・抵抗感あり | 強い抵抗・屈伸不能 |
| 人工呼吸器との同調性(挿管時)または発声(非挿管時) | アラームなし・同調 | アラームが時々鳴る | ファイティング・または大声で呻く |
CPOTで筋緊張を評価するコツ
筋緊張の評価は、患者の上肢を受動的に屈伸させて抵抗感を確かめます。この操作は患者に苦痛を与えないようゆっくり行い、正常な安静時は抵抗なしとします。鎮静が深すぎる場合もスコアが低く出るため、RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)との組み合わせで鎮静深度も同時に記録することが推奨されています。
BPSとCPOTの選び方まとめ
- 気管挿管中の患者が主体のICU → BPS・CPOT どちらも使用可。施設統一基準に従う
- 抜管後や非挿管の重症患者 → CPOTが適している(発声項目が使えるため)
- 施設に日本語版が整備されているか → CPOT-Jは検証済みで文書化しやすい
🧠 認知症・意識障害患者への応用
一般病棟や術後管理でも「言葉で痛みを伝えられない患者」は少なくありません。認知症の高齢患者がその代表です。
ABBEY Pain Scale(アビースケール)
アビースケールはオーストラリアで開発された認知症患者向け疼痛スケールで、ICU以外の病棟でも使いやすい設計になっています。6つの観察項目はそれぞれ0〜3点で合計0〜18点です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発声 | 呻き声・泣き声・叫び声 |
| 表情 | しかめ面・顔のゆがみ |
| 体の言語 | 体をかたくする・摩擦行動 |
| 行動の変化 | 混乱・不穏・食事拒否 |
| 生理的変化 | 発汗・皮膚の赤み・顔色変化 |
| 身体的変化 | 皮膚の傷・関節の変形・患部への接触回避 |
スコアが2点以下は痛みなし、3〜7点は軽度、8〜13点は中等度、14点以上は重度の目安とされています。判断に迷ったときは、主治医や担当医へ報告するとともに、専門的な疼痛評価・緩和ケアチームへのコンサルトを検討してください。
意識障害のある患者で見落としがちなサイン
意識レベルが低下していても、痛みのシグナルは残ります。特に見落としやすいのは次の3点です。
(1)頻脈・血圧上昇の急変 — バイタル変動は鎮痛不足のサインであることがある。他の原因を除外したうえで疼痛を疑う。 (2)四肢の不規則な動き — 「せん妄だろう」と片付けず、疼痛スケールで評価してから判断する。 (3)呼吸パターンの変化 — 浅速呼吸・呼吸補助筋の使用増加は痛みを我慢している状態でも生じる。
📝 アセスメントを記録に活かすポイント
疼痛スケールは「測って終わり」では意味がありません。記録として残し、チーム全体で共有することで初めて機能します。
記録するべき最低限の4項目
(1)評価したスケール名とスコア(例:CPOT 3点) (2)評価したタイミング(安静時・処置前・処置後) (3)介入の内容(薬剤名・用量・非薬物療法) (4)介入後の再評価スコアと時間
この4点がそろうと「痛みがあった→介入した→効果があった」という時系列が記録に残り、次のシフトの担当者が判断に困りません。
チームで「目標スコア」を共有する
PADISガイドラインでは、個々の患者に対して「このBPS/CPOTを目標値とする」という鎮痛目標の設定を推奨しています。例えば「BPS5点以下を維持する」という目標を申し送りに含めることで、夜勤・日勤を問わず同じ基準で管理できます。目標設定は医師・看護師・薬剤師が合わせて行うのが理想です。
⚠️ よくある現場の迷いとその対処
疼痛アセスメントを実践していると、判断に迷う場面が必ず出てきます。代表的なケースを整理しておきます。
「せん妄と痛みの区別がつかない」
不穏・せん妄と疼痛は症状が重なります。原則は「まず疼痛を除外する」です。CPOTやBPSでスコア化し、鎮痛薬への反応を見ることが最も確実な鑑別です。鎮痛薬を使っても不穏が続く場合は、せん妄管理に切り替える判断材料になります。なお、鎮静薬の調整や薬剤追加は必ず医師の指示のもとで行ってください。
「評価者によってスコアが変わる」
観察の主観差は避けられませんが、チームで定期的にキャリブレーション(ビデオや症例を使った勉強会)を行うことで、評価のばらつきを減らせます。評価者間信頼性の担保は、CPOT-Jの研究でも重視されており、年1回程度の確認が推奨されます。
「鎮静が深すぎてスコアが低く見える」
深鎮静下(RASS −4〜−5)では、痛みがあってもBPS・CPOTが低スコアになります。このため「スコアが低い=痛みがない」とは言えない場面があります。RASSを確認し、浅鎮静への移行が安全か医師と相談しながら、処置前後のスコア変化で評価するアプローチが有効です。
今日からできる一歩は、担当患者の処置前後にBPSまたはCPOTを1回スコア化して記録に入れること、それだけです。「数値で話す」習慣が根付くと、チームの鎮痛管理は確実に変わります!
あなたの次の一歩に
❓ よくある質問
Q. 挿管中の患者に使えるベストな疼痛スケールはどれですか?
BPS(Behavioral Pain Scale)とCPOT(Critical-Care Pain Observation Tool)の2種類が、PADISガイドラインで最も強く推奨されています。どちらも表情・体動・人工呼吸器への同調性などを観察して点数化するため、言語表現ができない患者に有効です。
Q. BPSで何点以上なら痛みへの介入が必要ですか?
BPSが6点以上の場合は早急な介入が推奨されます。管理目標はBPS5点以下です。3項目(表情・上肢の動き・人工呼吸器との同調性)それぞれ1〜4点で合計3〜12点となります。
Q. CPOTはBPSとどう違いますか?
CPOTは表情・体の動き・筋緊張・人工呼吸器との同調性(挿管)または発声(非挿管)の4項目で0〜2点ずつ評価し、合計0〜8点です。気管挿管していない患者にも使える点がBPSとの主な違いです。介入基準は3点以上。
Q. 認知症患者の疼痛アセスメントにはどのスケールを使いますか?
認知症や意識障害で自己申告が困難な患者には、ABBEY Pain Scale(アビースケール)やDOLOPLUS-2が使われることがあります。ICU以外の病棟では、観察項目をシンプルにまとめたABBEY Pain Scaleが導入しやすく、表情・声・体の動き・姿勢など6項目で評価します。
Q. 疼痛スケールを使う頻度はどのくらいが適切ですか?
PADISガイドラインでは、ICU患者は少なくとも1日4回(標準的な観察時間ごと)の系統的なアセスメントが推奨されています。処置・体位変換・吸引などの侵襲的ケアの前後にも評価し、記録に残すことが重要です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療行為や投薬の推奨ではありません。患者個別の疼痛管理や薬剤調整については、担当医師・薬剤師・専門チームに相談してください。
参考情報源
- PADISガイドライン日本語訳完成のお知らせ|日本集中治療医学会 (日本集中治療医学会) アクセス日: Thu Jun 04 2026 02:00:00 GMT+0200 (Central European Summer Time) https://www.jsicm.org/news/news191112.html
- ガイドライン|日本集中治療医学会 (日本集中治療医学会) アクセス日: Thu Jun 04 2026 02:00:00 GMT+0200 (Central European Summer Time) https://www.jsicm.org/publication/guideline.html
- ICUでの鎮痛管理の概要|JSEPTIC看護部会 (日本集中治療医学会 JSEPTIC看護部会) アクセス日: Thu Jun 04 2026 02:00:00 GMT+0200 (Central European Summer Time) https://www.jseptic.com/nursematerial/nursematerial0011_1.pdf